大事なダイヤモンドが外れた、落ちたというクレームがたくさん寄せられています。その上、その原因と保障について、販売店と見解が分かれることが多く、相談をされる私たちも頭が痛い問題です。 この項の回答は、原因の見方など回答者の個人的な見解であることを承知して下さい。
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ベゼルセッティングは日本では覆輪留めとか伏せこみと呼び、石の回りのフリンジ(板壁)を石側に押し込んで留めます。石がきれいに見えますが、石の回り全体にかぶさるので石が小さく見えます。それを防ぐために、爪に当たるフリンジ(爪)を出来るだけ短くします。
このリングはそのぎりぎりの限界まで爪を短くしてありました。また、ダイヤモンドの直径と穴の大きさは原型の設計上ぴったりだそうですが、たまたまこのダイヤモンドは直径が0.1mmほど小さいものでした。このような原因が重なり、使用中にダイヤモンドが落ちたと考えます。
有名ブランドでもこのようなことが起こりますが、この件でブランドメーカーさんと直接お話しをする機会を得て、リングの原型の精密さ、ダイヤモンドの管理など、さすがに世界のブランドであると痛感しました。
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海外のプラチナ製品は950‰(*)が標準です。プラチナ自体も割り金に用いるパラジウムも軟らかいため、Pt950の指輪はK18などに比べ大変変形しやすいといえます。 日常の使用では指輪には外力がかからないと考えがちですが、指に嵌めて使用していること自体が大変過酷な負担を与えています。何でもないと思いがちなことでも外力がかかっています。 このリングはコンサートにお出かけのときの車のハンドル操作の外力がかかり、変形したと推測します。
※‰はパーミルという千分率の表示記号。
このようにプラチナのリングは変形するものだと心得て、ご使用していただけるようお願いいたします。
なお、指輪の変形の要因の一つに、指輪のサイズと指の太さに遊びが大きい(サイズが合っていない)と変形しやすいとの見解があります。
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まず、前のお答えで申し上げたとおり、プラチナは軟らかく変形するものと思って下さい。
0.25ctのダイヤモンドは直径4.5mmくらいです。この大きさを2本の爪で留めるには、爪をかなり大きくしておかないと、石がずれたり落ちたりする危険があります。デザインを重視すると、ついこのことを忘れがちになります。
このリングは5年も過酷な使用に耐え楽しんでいただけたのですが、最後に石が落ちたのは残念です。石が落ちる前に少しずつ変形が始まっていたと思われますので、いつも気をつけていただければ石落ちは防げたかもしれません。
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プラチナは変形すると申し上げました。またK18くらいの硬さの金属は容易に磨り減ってきます。
このリングのメレダイヤモンド(*)の石留めは、彫留め(*)か爪留めか判りませんが、いずれにしてもその爪は1mmにも満たない小さなものです。長年の使用で磨り減ったことが推測されます。 長く可愛がって頂いた指輪ですから、ときどきお店でよく点検してもらい、もし爪に異常がみつみつかったら急ぎ補修してください。
しかし、一度修理してわずか半年後にまた石落ちがあったのなら、その時のお店のチェックが甘かったかもしれません。その事情をお話になり、よく相談して下さい。
※メレダイヤモンドとは、通常0.1ct以下の小粒ダイヤモンド。
※彫留めとは、座金の穴の周りを彫り起こして爪とし、穴に石を留める方法。
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このリングは回答者も拝見しました。結論を申し上げればこの素材に問題がありました。販売会社に聞きましたら、新しく開発された硬質純プラチナを用い、デザインから企画した商品とのことでした。硬質純プラチナという地金は、例えばタングステン(*)とかイリジウム(*)を微量に添加し、純プラチナの2倍とか3倍に硬くした素材です。しかし、純プラチナがもともと軟らかいものですから、いくら3倍硬くなったといってもK18の硬さにはるかに及びません。それに、製品加工中に熱を加えるとたちまち軟らかくなるものが多いのです。販売会社はその点の確認が不十分なまま、硬いという前提で爪の形をデザインしました。やはり硬さが足らず爪が開いてダイヤモンドが落ちてしまいました。販売会社の担当者は、お客様には保障したそうですが、この素材を用いた商品開発は変形に耐えるデザインに限定したいと本音を打ち明けてくれました。
お客様には、常に気をつけて少しでも変形したら修理されるようにとアドバイスしました。
※タングステンは、灰色の極めて硬い金属。
※イリジウムは、白金族の一種で重白金に属す。割金として合金すると硬さを増す。