手を動かすことで見えてきた理想像
トレンドを発信する街、東京・渋谷の喧騒から少し離れた閑静なエリアに位置するヒコ・みづのジュエリーカレッジ。井上泰世さんはここでジュエリーコースの3年生に在学している。
「幼い頃から光るものや石が好きで、河原に出かけて形の面白い綺麗な石を集めていました。宝飾職人を目指したのは自分にとってごく自然な流れだったと思います」。
専門学校でジュエリー製作の実技を学ぶようになると、ビジョンはより明確に。
「高校では機械科を専攻していたので卒業制作で鍛金も経験していましたし、地金を火で炙りながらの作業は全般的に好きです。でも頭で思い描き、PCに向かって作業するのと実際の手作業は全然違いますね。自分でデザイン、製作したイヤリングをつけてみたら、パーツの一部が隠れてしまったこともありました。今は、身につけて美しく見え、つけ心地も良いジュエリーを製作することを意識しています」。
技能五輪に向けて鍛えた「精神力」
貴金属装身具の製作や時計修理をはじめ40以上の分野で23歳以下の若者が技を競う「技能五輪全国大会」。井上さんは昨年、その金賞を受賞した。
「技能五輪は時間との勝負。でも静まりかえった広い会場でちょっとでも失敗すると、呆然として手が止まってしまうんです。そこで諦めずに、すぐ切り替えて作業を続けるためには、技術に加えてメンタルが大事。トレーニングを重ねてあらゆる失敗を経験しておいたことでリカバーできたのが良かったと思います」。
授業の前後や夏休みには一緒に技能五輪に出場する仲間とトレーニング。自宅でも反復練習を重ね、本番一ヶ月前に課題が発表されてからは最後の追い込みに熱が入った。
「大会に向けて根を詰めましたが、前日は道具の点検をしたらサイクリングに出かけ、平静な気持ちで本番に臨むよう心がけました」。
金賞を受賞して得たこと、次の目標は?
「反復練習で単に試験のためではなく普段の作業にも役立つスキルが身についた気がします。憧れはディオールのハイジュエリー。今後は良い作品を作るためにも“本物”“美しいもの”を見る機会も増やしたいと思っています」。