量産の工場で身につけた磨きの技術と自信
桃やブドウ、キウイなどの畑が広がる山梨県の塩山。畑の真ん中の、お祖母様が遺した一軒家を改装してアトリエにしているのが、ARAI METAL WORKSの荒井祥仁さんです。
「進路を決める高校生の時にモノを創り出す職人になりたいと思って、武蔵野美術大学に進学しました。最初は車などのプロダクトデザイナーに憧れていたのですが、デザインと同時に金工の授業も選択したところ、そっちが面白くなり、一番身近で使える金属製品であるジュエリーの仕事に進みました」。
大学卒業後は革製品とシルバーの店や御徒町のブライダルジュエリーメーカーでの商品管理担当を経て、甲府のOEMメーカーで磨きと原型製作を担当。
「4年間ひたすら磨きに磨き、安定した物づくりと仕事の早さを鍛えられました。そんな中、技能士の資格を持つ職場の先輩から今後のために技能検定に挑戦しておくといいと勧められたのです。仕事をしながら毎晩夜8時過ぎから受験のためのトレーニングを重ねて、まず2級に合格。実は1級は一度落ちてしまったのですが、試験を通して知り合った技能士の方が甲府のジュエリーミュージアムで実演されるタイミングなどに課題作品を見せては指導していただき、2017年に1級を取得することができました」。
(写真)ポリッシュ専門で修業したこともあり、磨きは自身の技術に自信を持っている工程。「外側はマットで内側だけ鏡面のリングもおすすめしています」。
「春夏秋は製作、冬はスノボ」が理想
1級取得と同時期に独立。ブドウ畑を手伝い最低限の収入を得ながらのスタートでした。
「どうしたら販売店やお客様に知っていただくことができるのか、悩みながら何度かハンドメイドインジャパンに参加を続けていたところ、向かいのブースの同業の方に広島の百貨店での販売イベントに誘っていただいたんです。以降、仙台や京都、大阪など全国のポップアップイベントへの出店が増えていきました」。
徐々にファンも増え、シルバーのバングル購入をきっかけにリピーターになったお客様から結婚指輪のオーダーを受けたことも。
「20代から70歳くらいまで、男性も含め客層は幅広いです。ジュエリーはシルバーと10金、18金を色味と硬さで使い分けて製作していますが、金属を光らせることとリングの指馴染みの良さでは他に負けたくないですね」。
スノーボードのインストラクターという顔も持っている荒井さん。
「着けた時はもちろん外して置いた時のモノとしての格好良さも追求してジュエリーを製作しつつ、冬場はスノボができる程度の仕事のペースが理想的かなと思っています」。
(写真)アトリエの窓の外は一面のぶどう畑。四季折々の豊かな自然に囲まれながら製作することで、デザインのアイデアも生まれ、時には癒しを得ることも。