宝石彫刻・研磨の家業を超え次のステージへ
金峰山で水晶が採れたことから宝石の研磨・加工の技術が伝えられ一大産業となった街、山梨県甲府。大寄智彦さんは、この地で観音像などの置物や美術工芸品などの制作に携わってきた貴石彫刻オオヨリの3代目です。
「祖父や父の仕事を子供の頃から見て育ったので、継いでくれと言われたことはないのですが自分で選び、自然とこの道に進みました」。
時代の流れとともに美術工芸品の需要が減り、ジュエリーメーカーからのOEMの仕事をしていく中で、自分でブランドを立ち上げ世に出していきたいと考えるように。
「そのためにはまず、技術的にもデザイン的にも自分がどの位のレベルなのかを確かめたくて資格の取得に挑戦、地元のデザインコンテストにも毎年のように応募しました」。
甲州水晶貴石細工 伝統工芸士の国家資格と山梨県知事認定ジュエリーマスターを最年少で取得、一方でコンテストでは知事賞や市長賞を受賞。甲府の若手宝飾関係者による産地ブランドである「Koo-fu(クーフー)」のプロジェクトに参加したことも大きな経験になったと大寄さんは語ります。こうして可能性を見定めたところで2014年、ジュエリーブランド「TO LABO」をスタートさせました。
宝石彫刻の魅力を多角的に発信
甲府駅のほど近く、人気の飲食店やショップが軒を連ねる小路にある「TO LABO shop&studio」。大寄智彦さんが手がけるブランドの直営店は、甲州水晶貴石細工の伝統工芸の実演と、宝石の研磨体験ができるスペース併設のお店となっています。
「宝石彫刻士のブランドであるからには、実際に宝石を彫刻・研磨しているところをお客様に見て体験していただくのが一番わかりやすいですから」。
店の片隅の作業スペースで、桶に満たされた研磨剤をつけながら彫刻機で石に細かいファセットやカービングを施す大寄さん。研磨剤をつけると石が見えなくなってしまうので、角度や力加減などすべて指先の感覚のみの作業です。
「デザインのアイデアも、石を削っている時に生まれることが多いかもしれません」。
こうしてオリジナルの作品を展開する一方、宝石学校の講師やワークショップなどでも大忙しの毎日。JICA国際協力機構のプロジェクトでザンビアに赴き技術指導を行ったことも。
「甲府、そして日本のジュエリー業界が盛り上がれば、その恩恵は必ず自分に返ってくると思って活動しています。最近は石ブームで“ルースが好き”“石の加工がしたい”という若い人も増えているので、宝石彫刻が将来の仕事の選択肢の一つになってくれたら嬉しいですね」。
天然水晶の原石をドーム状に彫り、 丁寧に磨き上げた中に、ダイヤモンドや水晶の結晶を封入した代表作の「クリスタルドームリング」。
花びらの一枚一枚がしなやかなカーブを描く宝石の花。
サクラリング
左のリングは、独自の技法でダイヤモンドを雄しべと雌しべに見立て、アメシストの中に閉じ込めました。