日本伝統の“水引”を今らしく自分らしく
都心から電車で約40分。生まれ育った立川市の自宅の一室にアトリエを構える、水引アーティストの小倉千紗さん。
「実は体育大学出身で、幼児発達学を専攻する中で仕掛け絵本や工作に触れ、クラフトの楽しさに目覚めました。その後、結婚して家にいる時間に色彩検定試験に挑戦するために、色やコーディネートについての知識を身につけたのです」。
贈答品や祝儀袋などに用いられる日本の伝統的な紐飾りである“水引”に興味を持ったのは、8年ほど前の夏のことでした。
「娘と浴衣を着て出かける時に、浴衣に合う和風のアクセサリーでかわいいものが見当たらなくて。子どもの頃から編み物は好きだったので水引の工程に近いものを感じ、見よう見真似でハンドメイドを始めました」。
慶事や弔事に用いられる古典的な“あわじ結び” “花結び” “叶結び”などをアレンジして、洋服にも合うモダンなアクセサリーに。
「水引の“結び”には人と人とを繋いだり、結婚式などお祝いの場面で活用される面もあります。季節の色や流行色を取り入れて、華やかでエレガントなデザインを心がけています」。
貴金属や天然石を使った作品へ
和紙を細いこより状にして固め、レーヨンや塩化ビニールを巻き付けて紅白や金銀などの色にした“水引”を素材に制作してきた小倉千紗さんですが、その活動がジュエリーのチェーンやパーツを手掛ける株式会社山森製鎖の目にとまり、2024年、銅線や銀線を素材とした水引モチーフのジュエリーのブランド「山森水引」の公式アンバサダーとして半年間活動しました。
「紙製の水引と金属では硬さや曲げ方が全く違うので苦労しました。水引はクセをつけるためにしごきながら形を作っていくのですが、銀線はしごくとクルクルと曲がってしまいます。でも逆にそれを生かして造形するのも面白いかなと思っています。実は私はアクセサリーとジュエリーの区別もあまりついていなかったのですが、国際宝飾展での作品展示などジュエリー業界の方々とのお付き合いが深まることで新しい知識を得ることができるのも嬉しいですね。今後は天然石を使った水引ジュエリーにもトライしてみたいのですが、水引ジュエリーはボリュームがあっても軽いことがメリットなので、宝石の重さをどう処理するかが課題です」。
いつかはファッションショーのランウェイやウエディングで作品を身につけてもらうのが夢という小倉さん。アクセサリーとジュエリーの境界を超え、活躍の場を拡げています。
右:AJCクリエイターズコンテスト入選作品。立体的に編み上げた水引にパールをあしらった。